「生きる誇り」 はやし浩司先生の育児・教育指導
私の留学の世話人になってくれたのが、正田英三郎氏だった。
皇后陛下の父君。そしてその正田氏のもとで、実務を担当してくれたのが、坂本義行氏だった。坂本竜馬の直系のひ孫氏と聞いていた。
私は東京商工会議所の中にあった、日豪経済委員会から奨学金を得た。
正田氏はその委員会の中で、人物交流委員会の委員長をしていた。その東京商工会議所へ遊びに行くたびに、正田氏は近くのソバ屋へ私を連れて行ってくれた。
そんなある日、私は正田氏に、「どうして私を(留学生に)選んでくれたのですか」と聞いたことがある。
正田氏はそばを食べる手を休め、一瞬、背筋をのばしてこう言った。
「浩司の『浩』が同じだろ」と。そしてしばらく間をおいて、こう言った。「孫にも自由に会えんのだよ」と。
おかげで私はとんでもない世界に足を踏み入れてしまった。
私が寝泊まりをすることになったメルボルン大学のカレッジは、各国の王族や皇族の子弟ばかり。
私の隣人は西ジャワの王子。
その隣がモーリシャスの皇太子。さらにマレーシアの大蔵大臣の息子などなど。
毎週金曜日や土曜日の晩餐会には、各国の大使や政治家がやってきて、夕食を共にした。
元首相たちはもちろんのこと、その前年には、あのマダム・ガンジーも来た。
ときどき各国からノーベル賞級の研究者がやってきて、数カ月単位で宿泊することもあった。
しかし「慣れ」というのは、こわいものだ。そういう生活をしても、自分がそういう生活をしていることすら忘れてしまう。
ほかの学生たちも、そして私も、自分たちが特別の生活をしていると思ったことはない。
意識したこともない。もちろんそれが最高の教育だと思ったこともない。
が、一度だけ、私は自分が最高の教育を受けていると実感したことがある。
カレッジの玄関は長い通路になっていて、その通路の両側にいくつかの花瓶が並べてあった。
ある朝のこと、花瓶の1つを見ると、そのふちに50セント硬貨がのっていた。
だれかが落としたものを、別のだれかが拾ってそこへ置いたらしい。当時の50セントは、今の貨幣価値で800円くらいか。
もって行こうと思えば、だれにでもできた。
しかしそのコインは、次の日も、また次の日も、そこにあった。4日後も、5日後もそこにあった。私はそのコインがそこにあるのを見るたびに、誇らしさで胸がはりさけそうだった。
そのときのことだ。私は「最高の教育を受けている」と実感した。
帰国後、私は商社に入社したが、その年の夏までに退職。
数か月東京にいたあと、この浜松市へやってきた。
以後、社会的にも経済的にも、どん底の生活を強いられた。
幼稚園で働いているという自分の身分すら、高校や大学の同窓生には隠した。
しかしそんなときでも、私を支え、救ってくれたのは、あの50セント硬貨だった。
私は、情緒もそれほど安定していない。
精神力も強くない。誘惑にも弱い。
そんな私だったが、曲がりなりにも、自分の道を踏みはずさないですんだのは、あの50セント硬貨のおかげだった。私はあの五十セント硬貨を思い出すことで、いつでも、どこでも、気高く生きることができた。
はやし浩司先生の育児・幼児教育コーナー5
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情報・画像の出展:はやし浩司先生
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【はやし浩司先生のプロフィール】
1947年岐阜県生まれ。
金沢大学法文学部法学科卒業。
日豪経済員会給費留学生として、オーストラリアメルボン大学ロースクール(法学院)研究生、三井物産社員、幼稚園教師を経て、浜松市にてBW(ブレイン・ワーク)教室、幼児研究所を設立。
独自の哲学・教育論をもとに幼児教育の実践を行っています。
現在は教育評論家として、ホームページやブログ、メルマガ、ユーチューブ等を利用しながら執筆活動に専念しています。
●著書に「子育て最前線のあなたへ」(中日新聞社)、「おかしな時代のまともな子育て論」(リヨン社・2002年3月発行)、「ドラえもん野比家の子育て論」(創芸社)など、30冊余り。
うち4冊は中国語にも翻訳出版されています。
「まなぶくん幼児教室」(学研)、「ハローワールド」(創刊企画・学研)などの無数の市販教材も手がけ、東洋医学、宗教論の著書も計8冊出版されています。
●教育評論家、現在浜松市伝馬町でBW教室主催。
●現在は、インターネットを中心に活動中。
メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞(08)、
電子マガジン読者数・計3000人(09)、ほか。
「BW公開教室」を、HP上にて、公開中。
(HPへは、「はやし浩司」で検索、「最前線の子育て論byはやし浩司」より。)
過去の代表的な著書
・・・などなど30冊余り出版されています。