マイナスのストローク(弱化の原理)

 

適切な幼児教育は後の人間形成において大変重要であると考えていますが注意していただきたいことがあります。
幼児教育は完璧な育児や教育を推奨するものではないということです。


 ・愛情が第一を忘れない
 ・他の子どもと比較をしない
 ・完璧主義にならない
 ・結果を期待しすぎない
 ・ゆったりとした心を持つ 

子どもへの過剰な期待は親子共に大きなストレスになる危険性あります。
ゆったりと構え、少しくらい上手くいかなくても「まぁ、いっか。」に考えられることが幼児教育を続けられるポイントになります。

「マイナスのストローク(弱化の原理)」について     はやし浩司先生の子育て随筆

 はやし浩司先生記録には、こうある。

 「A君。年中児。何を指示しても、『いや』『できない』と逃げてしまう。今日も、絵を描かせようとしたが、もぞもぞと、何やらわけのわからない模様のようなものを描くだけ。積み木遊びをしたが、A君だけ、作ろうともしない。一事が万事。先日は、歌を歌わせようとしたが、『歌いたくない』と言って、やはり歌わなかった」(19XX年9月)と。

 このA君が印象に残っているのは、母親の視線が、ふつうではなかったこと。母親は、一見おだやかな表情をしていたが、視線だけは、まるで心を射抜くように強かった。ときにビリビリとそれを感じて、授業がやりにくかったこともある。

 こうしたケースで困るのは、まず母親にその自覚がないということ。「その自覚」というのは、A君をそういう子どもにしたのは、母親自身であるという自覚のこと。つぎに、私はそれを母親に説明しなければならないのだが、どこからどう説明してよいのか、その糸口すらわからないということ。A君のケースでも、私と母親の間に、私は、あまりにも大きな距離を覚えた。

 が、母親は、こちらのそういう気持など、まったくわからない。「どうしてうちの子は……?」と相談しつつ、私の説明をロクに聞こうともせず、返す刀で、子どもを叱る。「もっと、しっかりしなさい!」「あんな問題、どうしてできないの!」「お母さん、恥ずかしいわ!」と。

 あのユング(精神科医)は、人間の自覚について、それを、意識と、無意識に区別した。そしてその無意識を、さらに個人的無意識と、集合的無意識に区別した。個人的無意識というのは、その個人の個人的な体験が、無意識下に入ったものをいう。フロイトが無意識と言ったのは、この個人的無意識のことをいう。

 集合的無意識というのは、人間が、その原点としてもっている無意識のことをいう。それについて論ずるは、ここでの目的ではないので、ここでは省略する。問題は、先の、個人的無意識である。

 この個人的無意識は、ここにも書いたように、その個人の個人的な体験が、無意識の世界に蓄積されてできる。思い出そうとすれば、思い出せる記憶、あるいは意図的に封印された記憶なども、それに含まれる。問題は、人間の行動の大半は、意識として意識される意思によるものではなく、無意識からの命令によって左右されるということ。わかりやすく言えば、この個人的無意識が、その個人を、裏から操る。これがこわい。

 A君(年中児)の例で考えてみよう。

 A君の母親は、強い学歴意識をもっていた。「幼児期から、しっかり教育すれば、子どもは、東大だって入れるはず」という、迷信とも言えるべき信念さえもっていた。そのため、いつも「子どもはこうあるべき」「子育てはこうあるべき」という、設計図をもっていた。ある程度の設計図をもつことは、親として、しかたのないことかもしれない。しかしそれを子どもに、押しつけてはいけない。無理をすればするほど、その弊害は、そのまま子どもに現れる。

 一方、子どもの立場でみると、そうした母親の姿勢は、子どもの自我の発達を、阻害する。自我というのは、「私は私という輪郭(りんかく)」のこと。一般論として、乳幼児期に、自我の発達が阻害されると、どこかナヨナヨとした、ハキのない子どもになる。何をしても自信がもてず、逃げ腰になる。失敗を恐れ、いつも一歩、その手前で止めてしまう。ここでいうA君が、まさに、そういう子どもだった。

 これについて、B・F・スキナーという学者は、「オペラント(自発的行動)」という言葉を使って、つぎのような説明している。

 「条件づけには、?強化(きょうか)の原理と、?弱化(じゃくか)の原理がある」と。

 強化の原理というのは、ある行動を人がしたとき、その行動に、プラスのストローク(働きかけ)が加わると、その人は、その行動を、さらに力強く繰りかえすようになるという原理をいう。

 たとえば子どもが歌を歌ったとする。そのとき、まわりの人が、それを「じょうずだ」と言ってほめたり、自慢したりすると、それがプラスのストロークとなって、子どもはますます歌を歌いたがるようになる。

 これに対して弱化の原理というのは、ある行動を人がしたとき、その行動にマイナスのストロークがかかると、その人は、その行動を繰りかえすのをやめてしまうようになるという原理をいう。あるいは繰りかえすのをためらうようになる。

 たとえば子どもが歌を歌ったとする。そのとき、まわりの人が、「こう歌いなさい」と言って、けなしたり、笑ったりすると、それがマイナスのストロークになって、子どもは歌を歌わなくなってしまう。

 A君のケースでは、母親の神経質な態度が、あらゆる面で、マイナスのストロークとなって作用していた。そしてこうしたマイナスのストロークが、ここでいう個人的無意識の世界に蓄積され、その無意識が、A君を裏から操っていた。親の愛情だけは、それなりにたっぷりと受けているから、見た目には、おだやかな子どもだったが、A君が何かにつけて、逃げ腰になってしまったのは、そのためと考えられる。

 が、ここで最初の、問題にもどる。そのときのA君がA君のようであったのは、明らかに母親が原因だった。それはわかる。が、私の立場で、どの程度まで、その責任を負わねばならないのかということ。与えられた時間と、委託された範囲の中で、精一杯の努力をすることは当然としても、しかしこうした問題では、母親の協力が不可欠である。その前に、母親の理解がなければ、どうしようもない。

 そこで私はある日、意を決して、母親にこう話しかけた。

私「ご家庭では、もう少し、手綱(たすな)を、緩(ゆる)めたほうがいいですよ」
母「ゆるめるって……?」
私「簡単に言えば、もっとA君を前向きにほめるということです」
母「ちゃんと、ほめています」
私「そこなんですね。お母さんは、その一方で、A君に、ああしなさいとか、こうしなさいとか言っていませんか?」
母「言っていません。やりたいようにさせています」
私「はあ、そうですか……」と。

 実際のところ、問題意識のない母親に、問題を提起しても、ほとんど意味がない。たいていは、「うちでは、ふつうです」「幼稚園では、問題ありません」などと言って、私の言葉を払いのけてしまう。さらに、何度かそういうことを言われたことがあるが、こう言う母親さえいる。「あんたは、黙って、うちの子の勉強だけをみてくれればいいです」と。つまり「余計なことは言うな」と。
 
 ……と、書いて、私も気づいた。私にも、弱化の原理が働いている、と。問題のある子どもの母親を前にすると、「母親に伝えなければ」という意思はあるのだが、別の心がそれにブレーキをかけてしまう。この仕事というのは、報われることより、裏切られることのほうが、はるかに多い。いやな思い出も多い。さんざん、不愉快な思いもした。そうした記憶が、私を裏から操っている? 「質問があるまで、黙っていろ」「あえて問題を大きくすることもない」「言われたことだけをしていればいい」「余計なことをするな」と。

 「なるほど……」と、自分で感心したところで、この話は、ここまで。要するに、子どもは、常にプラスのストロークをかける。かけながら、つまりは強化の原理を利用して、伸ばす。とくに乳幼児期はそうで、これは子育ての大原則ということになる。



子育て随筆へ

情報・画像の出展:はやし浩司先生

※このページの文章・及び画像の著作権は「はやし浩司」様が保有しています。
当サイトでは「はやし浩司」様のご厚意により許可を得て掲載させていただいております。

Yahoo!ブックマークに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Clip to Evernote


【はやし浩司先生のプロフィール】

はやし浩司先生1947年岐阜県生まれ。

金沢大学法文学部法学科卒業。
日豪経済員会給費留学生として、オーストラリアメルボン大学ロースクール(法学院)研究生、三井物産社員、幼稚園教師を経て、浜松市にてBW(ブレイン・ワーク)教室、幼児研究所を設立。

独自の哲学・教育論をもとに幼児教育の実践を行っています。

現在は教育評論家として、ホームページやブログ、メルマガ、ユーチューブ等を利用しながら執筆活動に専念しています。

●著書に「子育て最前線のあなたへ」(中日新聞社)、「おかしな時代のまともな子育て論」(リヨン社・2002年3月発行)、「ドラえもん野比家の子育て論」(創芸社)など、30冊余り。

うち4冊は中国語にも翻訳出版されています。

「まなぶくん幼児教室」(学研)、「ハローワールド」(創刊企画・学研)などの無数の市販教材も手がけ、東洋医学、宗教論の著書も計8冊出版されています。

●教育評論家、現在浜松市伝馬町でBW教室主催。

●現在は、インターネットを中心に活動中。

メルマガ・オブ・ザ・イヤー受賞(08)、

電子マガジン読者数・計3000人(09)、ほか。

「BW公開教室」を、HP上にて、公開中。

(HPへは、「はやし浩司」で検索、「最前線の子育て論byはやし浩司」より。)

過去の代表的な著書

子育て格言ママ100賢1子育て格言ママ100賢子育て格言ママ100賢子育てはじめの一歩

子どもの心・100の育て方目で見る漢方診断クレヨンしんちゃん 野原家の子育て論子育てストレスが子どもをつぶす

ドラえもーん・野比家の子育て論 子育て最前線のあなたへ受験に克つ子育て法ポケモン・カルト―あなたの子どもがあぶない!

・・・などなど30冊余り出版されています。

はやし浩司先生のHP・ブログ

はやし浩司のホームページ はやし浩司先生のメインサイトです。
子育て・幼児教育など、先生が実践されてきた内容が凝縮されています。
きっと先生の優れた教育感、人間味溢れる魅力をお分かりいただけると思います。
はやし浩司の書籍 先生が執筆をした過去の原稿をダウンロードして読めます。

読者の相談ページや進学問題、パパママの子育て診断ページもあります。

最前線の子育て論byはやし浩司(メルマガ版) メルマガ版「最前線の子育て論byはやし浩司」は2007年10月、
60000誌の中で、TOP-ONEに評価され、2008年のメルマガオブザイヤーを受賞しています。

先生の素晴らしい教育・子育て論を見てみて下さい。

当サイトでも掲載させていただいている記事が盛りだくさんです。
最前線の育児論byはやし浩司(Biglobe−Blog) 最前線の育児論のブログです。
子育てや教育について様々な視点・角度で執筆されています。

最前線の子育て論byはやし浩司 (ヤフーブログ) 最前線の子育て論(ヤフーブログ版)です。
教育に対して様々な情報を掲載しています。
主に先生の哲学者的な内容を見ることができます。
しかし、先生は博識ですね〜。
お孫様のかわいい画像と、日記、教育論を掲載しています。

Yahoo!ブックマークに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Clip to Evernote